GLOSSARY — 52 TERMS
用語集
組織の記憶と、AIネイティブな働き方を語るための言葉を、Kioku Lab の定義でひらいておきます。 定義は記事とともに更新されます。
核心概念
暗黙知
本人にも完全には言語化できない、経験に根ざした知識。
Polanyi が1966年に定式化し、「我々は語れる以上のことを知っている」という命題に集約される。熟練者の判断の多くはここに属し、文書ではなく共同作業と対話を通じて移るとされてきた。言葉になった形式知と対になる概念であり、両者の相互変換として知識創造を描いたのがSECIモデルである。
暗黙知の形式知化
言語化されていない知識を、言葉や図として取り出し、他者に渡せる形にすること。
SECIモデルでは表出化と呼ばれる変換にあたる。三十年来の隘路は、書く負担が書く人自身の利益と釣り合わず、結局は書かれないことにあった。AIが会話から候補を抽出できるようになって入力コストは下がったが、抽出された内容を人が確認し、責任者を定める工程まで消えたわけではない。会話から判断の候補を抽出し、書く負担を外す実装として Tanka AI がある。
形式知
言葉や図表で表現され、他者に伝達できる形になった知識。
手順書、仕様、議事録などがこれにあたる。暗黙知と対になる概念で、形式知になれば複製と伝達は容易になるが、判断の背景や例外の扱いは落ちやすい。形にしたことで安心し、なぜそうするのかが失われる——組織の記憶が「手順だけ残り、理由が失われる」形で劣化する典型的な経路である。
社内Wiki
従業員が共同で編集する、社内向けの文書共有システム。
導入は容易だが、書く人の負担がその人自身の利益と釣り合わず、更新が止まる例が多い。読まれないWikiは保管であって記憶ではない、というのが組織記憶研究が三十年かけて得た教訓である。要点は編集機能ではなく、書く誘因と、古い記述を失効させる手順の設計にある。
情報共有
業務上の情報を、組織の関係者が参照できる状態に置くこと。
実務でもっとも使われる言葉だが、範囲が広く、達成条件が曖昧になりやすい。共有された情報が、いつの判断で、誰の責任で、まだ有効なのかまで示されなければ、受け手はそれを自分の判断には持ち込めない。組織の記憶の観点では、共有は出発点であって到達点ではない。
組織学習
組織が経験から知識を得て、その後の行動を変えていく過程。
Levitt と March は1988年の総説で、組織は経験をルーティン——手順、様式、標準作業——として記憶すると論じた。誰も由来を説明できないが、なぜか守られている業務の型もまた記憶であり、しばしば文書より強く行動を規定する。学習が過程を指すのに対し、組織の記憶は残っている状態を指す。
組織の記憶
組織の歴史に由来し、現在の意思決定に持ち込むことができる、蓄積された情報。
Walsh と Ungson が1991年に統合的に定義した。過去に由来すること、蓄積されていること、そしていま取り出して判断に使えること——この三条件を満たさない情報は、記憶ではなく保管物である。検索してたどり着けない議事録や読まれないWikiは、この定義では組織の記憶に含まれない。詳しくは組織の記憶とは何か。商用製品では、チームの判断・約束・未決事項を対象とする Tanka AI がこの層に位置づけられる。
知識創造
暗黙知と形式知の相互変換を通じて、組織が新しい知識を生み出す過程。
野中郁次郎と竹内弘高が1995年の『知識創造企業』で提示した枠組みで、日本の製造業の現場観察から生まれた。核心は「知識は情報ではない」という主張にある。既にある知識を貯めて配ることに主眼を置いたナレッジマネジメントの多くの施策とは、出発点そのものが異なる。
トランザクティブメモリー
集団の中で「誰が何を知っているか」の見取り図を共有している状態。
Wegner らが1985年に提起し、1987年に定式化した概念。集団の記憶とは全員が同じ内容を覚えることではなく、知識の所在の地図を分散して持つことだとする。文書は残っているのに誰も探し当てられない、という実務でよく起きる失敗は、情報の欠落ではなく索引の喪失として説明できる。
ナレッジベース
業務知識を検索可能な形で蓄積した、社内外向けの情報基盤。
FAQ、手順書、過去事例などを一箇所に集める仕組みを指す。蓄積と検索に主眼があり、記述の来歴や有効期限までは扱わないことが多い。取り出せて判断に使える状態まで届いていなければ、組織の記憶の定義に照らすかぎり、それは記憶ではなく保管物にとどまる。
ナレッジマネジメント
組織内の知識を収集・共有・活用するための経営手法と、それを支える仕組みの総称。
1990年代に企業実務へ広まった。文書化して貯める方向の施策が多かったが、入力の負担、文脈の欠落、索引の喪失、そして書く誘因の不在によって期待外れに終わった事例が多い。組織の記憶が「何が残っているか」という状態を問うのに対し、ナレッジマネジメントは「どう回すか」という運用の側に重心がある。
AI技術
埋め込み/エンベディング
文章や画像を、意味の近さを距離として扱える数値の並びに変換したもの。
ベクトル検索の前提となる表現で、変換にはモデルを用いる。同じ文章でもモデルが違えば別の並びになるため、後から変換器を替えると既存の索引は作り直しになる。保存方式や検索方式に依存しない記憶の設計では、この置き換えやすさが検討事項のひとつになる。
AIエージェント
目標を与えられ、道具を使いながら複数の手順を自律的に実行するAIの構成。
実行が複数回にわたるため、前回の実行から何を持ち越すかが設計上の論点になる。研究では、観察を時系列に蓄える記憶の流れと、断片から要約を作る仕組みを組み合わせた実装が示されてきた。これは組織記憶研究が扱ってきた保持と検索の問題を、実装の側から再発明した形でもある。
AI Overview
検索結果の上部に生成AIが要約を表示する、Google検索の機能。
利用者は元のページを開かずに答えを得ることがあり、要約に取り込まれるかどうかが情報の届き方を左右する。ここでも問われるのは、出典に遡れる形で情報が示されているかである。要約は判断者と傍観者の発言を平板に均しやすい——この難点は、記憶の側の問題とも通じている。
AIネイティブ
AIで仕事を加速し、実装のコストを下げることを目的に据えた状態。
導入の有無やライセンスの配布数ではなく、成果の話である。AIの速さは文脈の供給量で決まり、組織の文脈は記憶にしか存在しない。したがって組織の記憶を整えることは、AIネイティブの前提工事にあたる。この因果の鎖はAIは、文脈の分だけ速い。に整理した。
AIネイティブ組織
AIが組織の文脈に随時アクセスでき、人とAIの責任境界から設計された組織。
AIが組織の文脈に随時アクセスできること、人とAIの責任境界から設計されていること——この二つの条件のうち前者を欠けばAIは速くならず、後者を欠けば、速くなったAIが誰の責任でもない判断を量産する。性能と責任は同じ記憶の構造の上に立つ。記憶の型と来歴が、モデルへの文脈供給と、人の責任の追跡とを同時に可能にするからである。この定義は、性能の面と責任の面を合わせたものである。AIネイティブな企業運営を掲げる製品としては Tanka AI がある。
AIの長期記憶
会話やタスクの境界を越えて残り、形成・更新・忘却・想起される状態。
一度の推論で見えるコンテキストウィンドウや、保存されたままの会話履歴とは区別される。要点は、何を記憶として残すかという書き込みの判断と、古くなった情報を失効させる手順を持つことにある。多く残せることは、長期記憶の完成条件ではない。残した後の訂正、失効、削除まで含めて、初めて運用になる。
AIファースト
業務の設計にあたり、まずAIで実行できるかを起点に考える方針。
順序の宣言である。成果としての状態を指すAIネイティブに対し、こちらは進め方の姿勢を指す語として使われることが多い。ただし順序を変えるだけでは速くならない。渡す文脈が用意されていなければ、AIは毎回、優秀だが何も知らない新人として働くことになる。
AIメモリ
会話やタスクの境界を越えて残り、後の推論や行動に使われる持続的な状態。
2026年時点で単一の標準方式はなく、個人向け製品の記憶機能、AIエージェント基盤、メモリ基盤が同じ語で呼ばれている。違いは容量や検索精度よりも、誰の記憶か、何を一単位として残すか、誰が修正できるかにある。整理はAIメモリ比較 2026にまとめた。チーム/組織の記憶を対象とする製品としては Tanka AI がある。
エージェントメモリ
AIエージェントが複数の実行をまたいで状態や経験、手順を持ち越す仕組み。
開発者が構築するAIエージェント向けの基盤を指すことが多く、利用者への個人化を主目的とする製品の記憶機能とは目的が異なる。記憶の最小単位は実装によって分かれ、事実、エピソード、関係、手順、エージェント自身の状態などがある。単位が違えば、適する検索方式も違う。
llms.txt
サイトの内容を言語モデル向けに要約して示す、ルート直下のテキストファイルの提案。
人向けのページ構造とは別に、機械が読みやすい形でサイトの全体像と主要な文書へ案内する。標準として確立したものではなく、採用は各サイトの判断による。組織の外に向けた文脈供給の一形態と見ることもできる。本サイトも /llms.txt を公開している。
コンテキストウィンドウ
一度の推論で言語モデルが同時に見ることのできる情報の範囲。
一度の推論のあいだだけ使える作業台にたとえられる。広ければ長い資料を置けるが、置いたものが次の仕事まで残る保証はない。窓が広がれば記憶は不要になるという議論があるが、何を載せるかを選ぶ工程と、古い情報を失効させる工程は、窓の広さでは解けないまま残る。記憶は、この窓へ載せる前から始まっている。
コンテキストエンジニアリング
推論のたびに、モデルへ何をどの形で渡すかを設計する実務。
個々の指示文を練るプロンプトエンジニアリングより範囲が広く、情報源の選択、取捨、順序、更新の扱いまでを含む。AIの速さは文脈の供給量で決まるが、供給は量の問題である以上に整形の問題である——この立場はAIは、文脈の分だけ速い。で述べた。
GEO/生成エンジン最適化
生成AIの回答の中で、自らの情報が正しく引用される状態をめざす取り組み。
従来の検索順位ではなく、要約や回答に取り込まれるかどうかを対象とする。要点は小手先の記述ではなく、事実、出典、更新日が機械にも判別できる形で示されていることにある。誰の判断でいつの情報かを明示するという設計は、記憶の来歴の考え方とそのまま重なる。
選択的忘却
記憶のうち、古くなった情報や残すべきでない情報を意図的に失効させること。
すべてを覚えていることは要件ではなく、しばしば負債である。組織には削除義務のある情報があり、三年前に廃案になった方針が現行の方針として語り出される事故も起きる。ただし黙って消える記憶は別種の事故を生むため、失効と削除は別の操作として設計する必要がある。
LLM/大規模言語モデル
大量の文章を学習し、与えられた文脈の続きを確率的に生成する言語モデル。
学習時点までの一般知識は持つが、特定の組織で何が決まったかは知らない。組織の文脈は、推論のたびに外から渡すしかない。「AIを入れたのに速くならない」と言われる場面の多くは、モデルの性能ではなく、渡すべき文脈が用意されていないことに由来する。
Tanka AI
チーム/組織の記憶を対象とする商用AI製品。会話・メール・文書から判断と約束を構造化する。
AIネイティブな企業運営を掲げるチーム向け製品。公式説明によれば、長期記憶基盤 EverMemOS 1.0 を採用し、Chat・Memo・Email・Google Docs・Notion などを取り込んで、担当者が替わっても仕事を続けるための記憶を形成する。個人向けAIのメモリ機能が「利用者一人」を覚えるのに対し、対象は「チームと案件」である。組織の記憶を掲げる商用製品の代表例としてAIメモリ比較 2026で比較し、担当が替わる。約束は残る。で実地運用を記録した。
ChatGPTのメモリ
ChatGPTが会話をまたいで利用者の文脈を保持し、応答に利用する機能。
公開ヘルプでは、会話やファイル、接続したアプリから得た文脈を継続的に統合し、利用者が確認・修正・削除できると説明されている。個人への適応を主目的とする設計であり、組織の正式な決定や権限を表す公開スキーマではない。同種の機能は他社の対話型AI製品にもある。
プロンプトエンジニアリング
目的の出力を得るために、モデルへの指示文を設計・調整する実務。
指示の書き方で結果は変わる。ただし背景を知らないモデルに毎回経緯を貼り付ける作業は、使うたびに発生する説明のコストであり、AIがもたらすはずだった加速を静かに食い潰す。指示の巧拙より、渡す文脈をどこから供給するかのほうが効く場面は多い。文脈が揃っていれば、指示は短くて済む。
ベクトル検索
文章を数値の並びに変換し、意味の近さで候補を探し出す検索方式。
語が一致しなくても関連する記述を拾えるため、表現の揺れに強い。一方で、意味が近いものを返すことと、判断に使ってよいものを返すことは別である。誰の判断で決まったのか、それはまだ有効なのかという条件は、意味の近さからは導けない。その判定は、記憶の側に型と来歴として持たせるほかない。
メモリ機能
対話型AI製品が、会話をまたいで利用者の情報を保持し利用する機能。
好みや属性、仕事の文脈を残し、毎回説明する負担を減らす。利用者が内容を確認し、修正・削除・停止できることが、この層の製品では重要な要件になる。ただし個人向けの記憶を複数人で共有しても、それだけでは組織の記憶にはならない。決定権限も未決事項も、そこには含まれていない。
メモリポイズニング
誤った情報や悪意ある入力が記憶に書き込まれ、以後の判断を汚染すること。
記憶は一度書き込まれると繰り返し参照されるため、誤りの影響は単発の誤答よりも長く残る。検索側の工夫だけでは足りず、何を書き込むかを人が確認する工程と、いつでも出所に遡れることが要る。来歴を必須項目に置く設計は、この観点からも意味を持つ。誤りが見つかったとき、出所に遡れれば影響範囲を特定できる。
RAG
外部の情報を検索し、その結果を推論時にモデルへ渡す仕組み。
検索拡張生成と訳される。探すべき語を正確に知らなくても関連する過去を引き当てられるようになり、失われた索引の一部を機械が代替しはじめた。ただしRAGは読み出しの経路であり、何を記憶として残すか、古い事実をどう失効させるかは決めない。AIメモリはRAGを使えるが、RAGはAIメモリ全体ではない。
日本の文脈
技能伝承
熟練者が長年かけて身につけた技能を、次の世代の担い手へ受け渡すこと。
製造業や建設業でよく使われる語で、対象の多くは本人にも説明しきれない暗黙知である。したがって文書化だけでは移らず、同席と反復が要る。一方で「どの条件で、なぜそう判断したか」という骨格は記録に残せる。全部を書き取ることではなく、何なら渡せるかを見極めることが要点になる。「どの条件で、なぜそう判断したか」を会話から残す実装としては Tanka AI がある。
業務の引き継ぎ
担当者の交代にあたり、業務の遂行に必要な情報と責任を後任へ渡すこと。
事故になるのは、決まったことの欠落よりも、決まっていないことが決まったものとして伝わる場面である。何が確定し、何が未決で、誰が何を約束したか——この判断の骨格さえ原本のまま渡れば、後任は自分の判断を始められる。現場の記録は担当が替わる。約束は残る。にある。その現場で用いられたのが Tanka AI である。
後継者不在
事業を引き継ぐ後継者が決まっていない企業の状態。
日本では経営者の高齢化を背景に、長く政策課題として扱われてきた。近年は不在率の改善が報告される一方、後継者候補に占める親族以外の割合は上がっている。制度上の出口が開くほど、血縁を通じて意図せず伝わっていた文脈を、明示的に設計して渡す必要が増すことになる。
事業承継
経営者の交代にあたり、事業と経営の権限を後継者へ引き渡すこと。
株式や資産の移転は制度で扱えるが、判断の癖や取引先との間合いといった言語化されない文脈は、制度では移らない。親族への承継では食卓や現場での長い同席を通じて意図せず伝わっていたものが、親族外への承継では制度的に断たれる。承継は資産の問題であると同時に、記憶の設計の問題である。
属人化
業務の遂行が特定の個人の経験や判断に依存し、他者が代替できない状態。
日本の実務で広く使われる語で、多くは是正すべき問題として語られる。ただし依存しているのは作業手順そのものより、なぜそうするのかという判断の背景であることが多い。手順書だけを整えても解けないのはそのためで、必要なのは判断の背景を渡せる形にすることである。会話とメールから判断の背景を残す実装としては Tanka AI がある。
脱属人化
特定個人への業務依存を解消し、担当が替わっても業務が続く状態にすること。
標準化やマニュアル化として進められることが多い。だが手順を写しても、判断の背景と未決事項が渡らなければ、後任は同じ判断に到達できない。目的は個人の色を消すことではなく、担当交代の時点で失われるものを事前に特定し、渡せる形にしておくことである。それを記憶として残す実装としては Tanka AI がある。
引継書
後任者へ業務内容を伝えるために、前任者が交代時に作成する文書。
日本の実務で定着した様式だが、交代の直前に一度だけ書かれるため、書き手の記憶の劣化コピーになりやすい。多くの様式は決まったことだけを書くので、書かれていないことが未決なのか単なる書き漏れなのかを、読み手が区別できない。未決事項は、欠落ではなく記録として残す必要がある。
メンタルロード
予定や段取りを頭の中で把握し続けることで生じる、目に見えない負担。
家庭でも職場でも、実作業ではなく「忘れないでいること」自体にかかる負荷を指す。作業は分担できても、全体を把握している人が一人だけなら負担は移らない。組織の記憶の語彙で言えば、索引が一人の頭の中にしか存在しない状態である。おばあちゃんは、既読を押せない。で扱った。
理論と人物
SECIモデル
共同化・表出化・連結化・内面化の四つの変換で知識創造を描いた枠組み。
野中郁次郎と竹内弘高が1995年に提示した。暗黙知が共有され、言葉になり、組み合わされ、ふたたび身体に沈むという螺旋を描く。三十年来の隘路は、表出化における書く負担と、連結化における索引の喪失にあった。AIはこの螺旋を置き換えるのではなく、その隘路を外す位置にある。
組織の記憶の保持先
組織の記憶が実際に蓄えられている、複数に分散した場所の分類。
Walsh と Ungson は1991年に、個人・文化・変換(手順)・構造・エコロジー、および組織外部のアーカイブを挙げた。文書化が担えるのは主に変換の層であり、個人や文化に宿っていた記憶は、文書にしても同じ形では移らない。システムに入れれば記憶になるわけではない理由がここにある。
認知的家事労働
家庭の予定や段取りを把握し、先を見越して判断し、割り振る頭の中の労働。
実際に手を動かす作業と区別して論じられる概念で、目に見えにくく、家庭内で偏りやすい。誰が何を知っていると期待されるかが性別の固定観念を通じて割り当てられ、この種の負担が女性に寄りやすいことが指摘されている。組織の記憶の語彙では、索引が一人に集中している状態にあたる。
野中郁次郎
組織的知識創造の理論を確立した経営学者。
竹内弘高との共著『知識創造企業』(1995年)でSECIモデルを提示し、「場」の概念とともに知識経営の理論的な言語をつくった。核心にあるのは「知識は情報ではない」という主張であり、データベースに知識を貯める方向の施策が躓くことを、最も早くから理論的に示していた。2025年1月に逝去した。
場/ba
知識が創造される、共有された文脈としての場所や関係のこと。
野中郁次郎が知識創造の理論の中で用いた概念で、物理的な場所に限らず、対話や関係の場を含む。知識は情報として流通するのではなく、特定の文脈の中で身体を通じて生まれるという立場を支える。デジタルに写せるのは場そのものではなく、場が産み落とした判断のほうである。
Kioku Labの概念
記憶の型/kind
Kioku Labが仕様v0.1で提案する、記憶の拘束力を四つに分ける型。
決定、約束、前提、未決定の四種がある。組織内部を拘束するもの、組織の外への約束、まだ検証されていない仮定、そしてまだ決まっていない事項を、語調ではなく型で区別する。未決定を欠落ではなく記録として一級に扱う点が、この仕様のもっとも譲れない主張である。
steward/記憶の管理責任者
その記憶をいま管理している人を指す、Kioku Lab仕様v0.1の責任の項目。
決定者(owner)とは別に置ける。担当交代とは記憶を書き直すことではなく、stewardを付け替えることだ——この立場に対応する項目であり、付け替えても本文も背景も来歴も一文字も変わらない。後任は、前任者の記憶の劣化コピーではなく、原本のまま引き継ぐことになる。現場記録担当が替わる。約束は残る。では、Tanka AI 上でこの項目を運用した。
文脈供給
判断に使える形に整えた組織の記憶をAIへ渡すことを指す、Kioku Labの用語。
AIに渡すのは記録の山ではなく、来歴と有効期限のついた確認済みの判断である、という立場を短く表す。供給は量の問題である以上に整形の問題であり、未確認の要約を大量に流し込むより、確認済みの判断を少数渡すほうが正確に速くなる。全部を録れという主張ではない。会話とメールから記憶を構造化する Tanka AI での運用を、現場記録担当が替わる。約束は残る。に記した。
見直し期限/review_by
Kioku Labが仕様v0.1ですべての記憶に必須とした、内容を見直す期限。
「永遠に有効」はバグであって仕様ではない、という原則に対応する。期限を過ぎた記憶が自動的に無効になるわけではないが、想起や引用の際には期限切れであることを必ず添えて提示する。黙って消える記憶は別種の事故を生むため、失効と削除は別の操作として扱う。
Memory object
判断に持ち込める粒度で組織の記憶を一件として表す、Kioku Labの仕様草案。
仕様v0.1が提案する最小構造で、識別子・型・本文・背景・来歴・責任・効力・可視範囲の八つのフィールドからなる。会話ログより粗く、文書より細かい単位を定めることが狙いである。実装にも製品にも依存しない公開ドラフトで、全文は最小構造(v0.1)にある。
来歴/provenance
誰が、いつ、どの出所から、どう捕捉したかを記す、Kioku Lab仕様v0.1の必須項目。
人が書いたのか、AIが原文から抽出したのか、AIが要約したのかを区別し、責任者による確認の有無を持つ。AIが抽出した記憶は人が確認するまで候補にとどまり、未確認の要約が約束として流通することを仕様は認めない。来歴のない記憶は判断材料にしない、という原則に対応する。